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明日目が覚めたら 僕は

「秘密」二次創作サイトです

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いつか(9)

 19, 2018 00:33
「薪。今から通訳してくれ。」

そう言って薪の肩にそっと手を置いたその瞬間。
薪はハッとして長町を仰ぎ見る。

(手が震えている)


「長町・・」と言いかけたその言葉を遮るように
彼は肩をぐっと掴んだ。

「絶対成功させる」

そう言う長町のその表情は
今までで一度も見たことのない
必死さと賢明さと愚直さがあった。

いままで誰よりもスマートに。
そつなくこなすことが当たり前と
言わぬばかりのその態度が
時に反感を買い、羨望を集めてきた。

その男が。

先ほどまでのやり取りのメモにざっと目を通した
長町の表情はいつも通り冷静さを取り戻していて。

「まず。その副機長に伝えろ。
乗客の安全の確約が先だ。と」

そしてそっと薪に耳打ちした。

(それから。相手の名前を聞いてくれ)

犯人とのネゴシエーションで
最も難しいのは人質になっている乗客の安全を確保することだ。
一言で命が奪われる最悪の状況はなんとしてでも避けなくてはならない。
かといって、犯人の要求をのむことで国の信頼を損なうことも避けなくてはならない。
交渉人の腕一つで、言葉一つで状況が決まると皆理解しているからこそ。
空気が張り詰める。

薪が流暢なその国の言葉で呼びかける。

「副機長、あなたの名前を。本当の名前を教えて下さい」

「・・アディリ。アディリ・ムサバイエフ」

静かな、小さなつぶやきが部屋の中でじわっと広がる。

(カザフ出身か)

「アディリ。乗客は全員無事ですか」

敢えて丁寧な言葉で話すようにと
長町は薪の隣で逐一書いたメモを渡す。

「・・・今のところは。あなたの大切な人たちもね」

そう言って嘲笑う声は薪を激昂させるのには
十分だった。

思わず言葉を発しそうになった薪の肩を思い切り抱き寄せると
長町は耳元で囁いた。

(相手のペースに乗るんじゃない)

周りの者たちは思わずその様子に赤面した。
こんな緊急事態だというのに。


「乗客だれ一人傷つけないと約束してくれ」

「約束?ずいぶん生ぬるいことを言うなあ。
日本の警察官は。あんた、タジクが見込んだ男だと聞いていたが
大した事ないな」

その時だった。


「タジクをこちらの空港に向かわせる。
拘置所からは1時間ほどかかるだろう。
それまでに羽田へ戻れるか。そう伝えろ。」


顔色一つ変えず長町はそう言って薪に伝えろと
合図した。


信じられない。
こういう時。

犯人の交換条件を安易にのむことは
避けねばならないとわかっているだろうに。


「時間がないんだ」

小さな声で。
そう言った長町の手元に握られている資料には
アディリと言った男の個人情報が
握られていた。

南官房長が機転を利かせて
本庁からすぐに取り寄せたものだった。

『アディリ・ムサバイエフ。タジクと一緒だ。あの村の出身者。身寄りをなくし
とある裕福な学者夫婦に引き取られ然るべき教育を受けている。」
そして・・・

「余命幾ばくもない」

自爆してもいいと思っている可能性もあるのだ。

観念したような表情で。
薪はマイクを握った。





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