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明日目が覚めたら 僕は

「秘密」二次創作サイトです

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手と手

 15, 2017 00:24
「薪さん、こういう曲聴くんですか」
意外そうな顔をして青木は
薪のⅰPodのイヤホンに耳を当てた。

「ああ。学生の頃から」
そうちょっと懐かしそうな顔をして
遠くを見つめている。

ああ。
その思い出は。
誰との思い出ですか。
思わず薪を背後から抱き締める。

振り向きながら。
さあ。と笑う薪は相変わらずきれいだ。


――――




「薪。試験どうだった?」

僕らは4年の春。
同じように国家一種の試験を受けた。
将来、国家官僚になるための第一歩だ。

「東大が試験会場だったから
いつも通りのコンディションが保てた。」

と笑って薪は言った。

お前はいつも余裕だな。

そう言われて、薪は少し首を傾げた。

「余裕などない。だが試験は嫌いではないな」
そう言ってちょっとまた微笑む。

「なあ。せっかく終わったし。遊びに行かないか」

鈴木は今までの試験勉強で
さすがにストレスが溜まっているらしく
そのまま帰るのは嫌だと言い出した。

でももう夕方で・・とごねる薪の腕を
ぎゅっと掴むと鈴木は有無を言わせず
行くぞ、と言ってタクシーをつかまえて
乗り込んだ。

「どこに行くんだ」
びっくりした顔をして薪が俺を見つめる。

こういう時、たまらない気持ちになる。
どんなに難問が解ける秀才であろうが。
学内で有名な麗人であろうが。

思いも寄らない行動を目にした時の
驚く薪のその表情に。

なんというか、
優越感を感じる。

「行こうぜ!」
と連れて行かれたのは・・・


僕の家だった。

「なんだよ、帰ってきただけじゃ・・」
「とりあえず着替えてからだ」
そう言って
自分の家のように玄関のカギを開けて
入る鈴木に呆れながら薪はつぶやく。

「とりあえずって・・・どこいくのか先に言えよ」

そうだなあ、と笑いながら鈴木は
薪の許可も得ずどんどん進んで薪の部屋に入る。


クローゼットまで
勝手に開けるのを見たときは
「おい!」とさすがに不機嫌になる。
そんな顔色もまるで気にしないのが
この友人だ。


「そうだな。こういうのがいいかな」
と物色しながら取り出したのは
黒のシャツに黒のパンツだ。

あと・・うーーん。
お前、相変わらず持ってるものが少ないなあ。
と不満そうだ。

これ着ろよ。薪。
そう言って渡されると
なんでこんな格好を・・・といいながら
後ろで素直に着替えている。

(そういうところ、かわいいんだよなあ)


振り向くと
ボタンをすべて留めて
シャツもしっかり入れて・・・

「うーん、剛君。ちょっと来て。」
そう言ってまず第二ボタンまでを外し、
シャツを出す。

うん。いい感じ。
と鈴木は満足気に見つめる。

「なんだ、だらしないな」
とすぐにボタンを留め直そうとする薪の手を遮って
鈴木はだめ、このままで。と強く諭す。


あとは、、俺のアパートに寄って行くか。


「本当に怒るぞ」

その表情は。
どこかの有名なボーカリストによく似ていた。

―――

「鈴木君、久しぶり。誰その子、超可愛い~」
長い髪を揺らしながら。
ひらひらしたスカートがまぶしい。

周りの女子たちがきゃあきゃあ言って
僕らを見つめているのがわかる。

―――


学校からそれほど遠くないところにある
そのライブハウスは狭くて暑くて
蒸しかえっていた。

あの後、鈴木のアパートに寄って
こいつのごついアクセサリーを
勝手につけられて
髪の毛もちょっとだけ
整髪料を付けられると
自分が自分じゃないみたいで落ち着かない。

「すごい似合ってる」
とその姿を見て鈴木はすごく満足そうに
うなずいた。

こういう格好、薪にさせてみたかったんだよなあ。
そういう鈴木はいつもとあまり変わらない恰好で
自分だけなんで・・・と薪は恥ずかしくなる。

「これ、借りるわ」そう言って薪は
置いてあったいかにもというようなダテ眼鏡をかけて
帽子をかぶる。
眼鏡や帽子には違うフィルターをかける魔法があるみたいだ。
そう思って。
薪はちょっとだけ落ち着いた。

―――

「こいつ俺の友達。IDMS、何時から?」

慣れた調子でスタッフにそう聞いている鈴木は。
僕の知らない世界の人みたいだった。

ガチャガチャした雰囲気。
はがれかけたポスターが重なっている壁。
照明だけがただ明るくて
熱くて、とにかくライブハウスは熱気と
人の気配が溢れかえる。


ビールでいい?
可愛い声が後ろで聞こえる。

ああ、と言いながら
鈴木はそのコップを受け取っている。

「薪、こっち」
そう言われて手を掴まれる。

「なんだ」
少し緊張した様子で上目遣いを返す薪の
その表情が俺はすごく気に入っている。

「いいから。人がいっぱいではくれるぞ」
そう言って手と手を絡めながら
鈴木はどんどん
前のステージへと進んでいく。

ああ。
またこいつの手に導かれていく。
そうふと思った。

「俺の高校の時の友達のバンドが
ここのライブハウスによく出てるんだ」

そう言って。
とりあえず乾杯な。
そう笑ってビールを片手に囁く。
「試験お疲れ様。俺は薪にずっとついていくぜ」

なんて言葉だ。
と薪は少し呆れて
少し満足そうな顔をした。


そのとき。
わあっ。と歓声があがる。

「はじまるぞ」

そう言って前を向くと
ボーカルの声が会場を包み込む。

「fire、この曲でメジャーデビュー決まったぜ!」
そう言って高らかに歌い上げるそのまぶしいオーラと。
周りの歓声に。

薪はただ目を丸くして驚いた顔をして
ステージを見つめている。

ちょっと心配になって。
鈴木は薪の顔を覗き込む。

「大丈夫か」

その瞬間。
薪の眼鏡越しの瞳が
輝いているのを見止めた。

すごいな。
薄い唇が震えている。

ぎゅっと。俺の手を握って。
「すごいな。」
と何度もそう呟いて
その曲のリズムに揺られて踊る薪を。
俺は少し不思議な気持ちで眺めていた。

また深窓のお姫様の扉を開けてしまったか・・・。
そんな気持ちが頭をかすめた。

亡き澤村さんのあの怖い顔も
脳裏をかすめた。

「踊ろう。」そう言えば。
薪は嬉しそうにリズムに乗って。
俺達はいつまでもその空間に漂い続ける。


―――

気がつくと。
薪は鼻歌を歌っていた。

「薪さんが鼻歌って珍しい・・」

たまには。いいだろ。

気持ちよさそうに
歌う薪を。

青木はいつまでも
不思議な気持ちで眺める。

その曲、彼らのデビュー曲ですよね。
今一番チケットとれない
と言われている実力派バンドの。
有名な曲だ。


fire 君の心に火をつけてあげる・、、


いつまでも
軽快に
色っぽく
その声は響いていた


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