明日目が覚めたら 僕は

「秘密」二次創作サイトです

Take a look at this

嵐の夜だから3

 23, 2016 23:11
一瞬、

鈴木のその言葉に。
気圧されると思った。


普段の物柔らかな雰囲気ではない。


本気か。


―――


「すまなかったな。」

まだ少し濡れた髪を
掻き上げながら薪は
はにかむ様に微笑む。


「いや。 雪子の家からだと
近かったから」


そう言った鈴木の言葉に。
心に刺さる痛みを感じる瞬間すら。

「そうか。じゃあよかった」

とうつむきながら微笑む真似をするのも。
もう慣れた。

ソファに腰かけながらその様子を
面白そうに見ているのは長町で。


冷めかけたコーヒーを啜りながら、
薪の震える白い指先をつぶさに見つめていた。


「で、どこに?休日デート?」
二人の間に当然のように入り込む長町の言葉に
鈴木はあからさまに冷たい視線を送る。


「内緒。」

そう言いながらも。
意地悪そうな笑みを浮かべる鈴木のことは
嫌いではないと思う。



ケチ。

「ふん。昨夜の薪のこと知りたくないのかな。克洋君」

「えっ、知りたい」(鈴木)

「えっ」(薪)


―――


「確かこんな感じで」

気がつくと、ピアノの前に座って
指を滑らせている。


「そうそう」


あ、ちょっと違うかも。

ここはこういうふうに指を。


「なるほど!」

珍しく子供のように素直に言うことをきいて。
瞳をキラキラさせてピアノの鍵盤を目で追う
薪は。

こと初めてのことに関しては、
興味を隠すことができないのだ。
それは。
学生の頃から変わらない。


「この曲は初心者でも弾きやすいから、
薪は覚えも早いし、すぐ通しで弾けるようになるさ」


薪の後ろに立って
優しく教えている長町の姿を
座りながら見つめながらそう思う。


ただ・・
心なしか。


二人の触れ合う距離の近さに。
酷く胸の中がざわめいている。


―――


「せっかくの休みなのに。
雪子さんと過ごさなくていいのか」

風で落ち葉が舞う上野公園を
二人少しだけ早歩きしながら
薪はそう訊ねた。


「ああ。あっちも大学の時の友達と会うらしいし。
それに。ムター博物館の展示なんてめったに見られないしな」

まあ、雪子も見たがってたが。
恋人同士で見るのもな。


―――


「薪、俺ちょっと無理かも・・」

展示物のあまりのグロさに。
途中退出したくなった。


「ああ。いいよ、先に出てても」

その端正な顔立ちは。
顔色一つ変えずに。

そのガラス越しの死体群を
食い入るように見つめている。



「薪、そんなに・・」と言いかけたとき。




想いはあるのだろうか


と小さい声で薪は呟いた。


「この人たちの脳には。
どんな想いが。記憶があるのだろう」


この先。
僕らが向かう先の。
第九という場所に。


こいつは。
覚悟をもって
使命をもって
背負うつもりなんだと。


「一緒に見るよ。お前が行くところが。
俺が行く道だから」

そう言って。
鈴木は隣の友人の肩にそっと手をかけた。

――


「久しぶりにきたが、やっぱりいいな」

学生の頃からよく二人で通った
昔ながらの喫茶店で
一息つくと薪は無邪気に笑う。



本当は。
これから先の第九という場所へ行くことへの不安で。
正直苦しかったのだ。

それなのに。
鈴木は。
いとも簡単に一緒に行くと笑う。



「なあ。本当に第九でいいのか」

ん。

「いくら学生の頃から一緒だったからって。
僕のいきたいところに、お前まで付き合う必要はないんだ」


いいんだ。
俺が。お前のそばに居たいんだ。

博物館で言った言葉を
鈴木は目を細めてそう呟く。

窓の外は風が強くなってきて。
昨日の夜のように。
嵐になるのではと思われた。


一生そばに。


それは。
とても幸せなことで。

そして。
それは苦しいことであるかもしれないと。

最近、気付き始めている自分がいる。
この苦しい気持ちは。


いつどうやって。
昇華されるのだろう。



風に舞う木の葉のように。
心もとなく。

そう思うのは。
なぜなんだろう。


ずっと
こうしていたいだけなのに。



「お前が結婚し、家庭をもって。
その先もあいつを今と同じように
扱えるのか」

そう言った長町の言葉が。


答えを先延ばしにしたくて。
僕らは。

ただ。
こうして

ただ
いつまでも









スポンサーサイト

COMMENT 0

WHAT'S NEW?