明日目が覚めたら 僕は

「秘密」二次創作サイトです

Take a look at this

青空

 08, 2016 23:07
5月。
ベッドルームの重いカーテンを
意を決して思い切り開けると、
まぶしい陽が差し込む。


思わず目を細めて
空を見上げると
淡いブルーが一面に広がっていた。

だるそうに起き上がり薪は
そのまま頭を掻きながら
リビングに向かった。

物音ひとつしないいつもの
空気を確かめると、
南向きの窓を全開にした。

ふわっと緑の香りを運んできた風が
無防備な薪の身体を包みこむ。

ちょっとだけ肌寒いのは
気温が少し下がって、
風が強いせいだ。


慌ててソファにかけてある
カシウエアのグレーのパーカーをはおった。
フランスにいたころからの愛用品の一つだ。


少し空気を入れ替えると
気持ちが落ち着いて
高層階のベランダから
下の景色を眺める。

セキュリティのためとはいえ。
いつまでたっても
この高層階は苦手だ。

都会の中で育ちながらも
戸建て住まいで大学のころまで
過ごしてきた自分。

ベランダの間から見える空だけの
景色に軽くめまいがした。

起きたばかりの髪はぼさぼさで。
もう一度手ぐしで掻き上げてみるが
さほど変わらない。

キッチンのただ大きいだけの冷蔵庫を
無造作に開けて
ミネラルウォーターを掴みとり
そのままで口をつけると
ため息をついた。


今日は珍しく休日で。

そして。

なにも予定がない。



―――


時計を見るとまだ6時になったばかりだったが、
まあ、いつもよりはゆっくり起きたほうだ。


窓を静かに閉めると
一気に風の音も街の喧噪の音も
遮断され、空気に圧のかかったような
感触を耳で受け止める。


この部屋は。
一人住むには多少広すぎる。

もともと誰かと住むなどとは想定していなかったが、
部屋を探した時にセキュリティを一番に考えると
一人暮らしほどの広さの部屋などは物件としては皆無で。
必然的にこの大きさの部屋に落ち着いたのだ。

ここに来たことのある者は限られるが、
皆一様に「ホテルのスイートルームのようだ」と
言う。

インテリアも。
その時の業者に一任したものだから、
すべて統一感のあるものになっている。
そう言った生活感のない雰囲気が
いろんな要素から醸し出されているのだろう。

唯一注文したのは。
余計な装飾などはいらない。
できる限りそぎ落とした感じでと。

そういうセンスは実の親譲りなのかもしれない。

あのギラギラした長町のあのマンションのセンスは
まったく理解できないと思った。

すみれの家のすべてを白いもので
覆いつくそうとするあの潔癖さと清廉さは
世俗離れしていてそれはそれで潔いと思うが、
共感とは違うように思う。


青木のあの福岡の実家の雰囲気は。


僕が憧れてやまなかった家族の形が
そこにあった。
僕が子供のころに当たり前のようにあったもの。

生活という名の。
かけがえのないもの。
日常というものの
奇跡。

そんな青木の家族の
大切な当たり前を奪ってしまった
僕の存在が。

罪が。

僕の心の足枷となっていることを。
僕自身が一番よく分かっていた。

目の前にして。
好きだ、と言えないけれど。
殺せ、とは言える。

おかしな話だ。
数年前の自分を思い出して薪はそう思った。

リビングのソファに座り、
青い空を見上げると
もう何十年も前の。
鈴木と一緒に行ったあの海の青さを
ふと思い出した。


大学生のころの自分が、
なんて無邪気だったことか。
そして。
なんて苦しい恋をしていたのだろう。

相変わらず鈴木と一緒の写真は
いつもの位置にあって。その変わらぬ笑顔の
大切な人の顔をそっと撫でるのは
日課のようなものだ。



そして。


その横の小物入れに
入った指輪をそっと手に取ると
当然のようにそれを左手の薬指に
はめる。

大切な儀式のように。
それは。
丁寧に執り行われる。



まるでそれは
神に許しを請うかのように。






スポンサーサイト

COMMENT 0

WHAT'S NEW?