明日目が覚めたら 僕は

「秘密」二次創作サイトです

Take a look at this

葉桜のころ(1)

 20, 2016 22:32
大学デビューという言葉以前に。

僕にとっては何もかもが初めてのことだった。
―――


大学に入って。

鈴木を巻き込み、
プレミアムの。
父と母の。
澤村さんの。

僕がずっと知りたかった秘密を知って。


そして・・・・僕は一人になった。


澤村さんの葬儀が終わり。
あの日の夜。
鈴木が荻窪の家に来てくれたあの日。

僕は初めて。
他人の前で泣き崩れた。
そんな僕に彼は言った。


友人だったら。
ずっと一緒にいられる。


―――


父や母と一緒に過ごしたころの記憶には。
同世代の友人と一緒に遊ぶ自分の姿が
思い出される。
それなのに。

あの事件があって
澤村さんと一緒に暮らし始めてからの
人生において。

僕には友人らしい友人は
思い出すことができない。

小学校にも。
中学校にも。
高校にも。
通っていたはずなのに。

澤村さんとの思い出が
彼と過ごした時間があまりにも長かったから。
そして何より。

澤村さんの動向を探る時間に費やすことのほうが
僕にとっては何よりも優先されるべきことだったから。

自分の目的を果たすために
僕は生き急いでいた。
京大に入り、自分の記憶を再現する研究に。
東大に入り、あのシンボルの意味を知るために。

ただそれだけのために
生きていたといってもいい。


だから。僕は、鈴木が口にした
友人という言葉に。
ひどく心を揺さぶられた。

友人という響きは。
なんて特別なものなのだろう。

言葉は誰よりも知っていて。
意味も誰よりも正確に答えられるであろう自分。

それなのに。

僕は。
僕の人生は周りのそれとは違い。

ある意味、
人が当たり前に経験することに関しては
非常に経験が浅すぎた。

―――
あの事件から1か月ほど経ったある日のことだった。
僕は、人生の目的を失ったことへの喪失感と。
そしてあの広い邸宅に一人いることでの孤独を抱えながらも、
学生生活を再開させていた。

おぼろげな記憶ではあるが、あの頃は鈴木が
マメに家に来てくれて、一緒に大学に通っていた気がする。
一人きりの僕を案じていてくれたのだろう。


「薪くんの初恋っていつ?」

鈴木と一緒にいることが多くなったある日。
たまに一緒に学食でランチを食べる女子からそう尋ねれらた。



初恋?


僕はしばらく考えたが、
それはいつまでも空白のままだった。

ずっと考え込んでいる僕を見て。

「え、薪、初恋とかないの?」
隣の鈴木が本気で驚いた顔をしている。


そう驚かれると多少むっとしたが、
それでもそれらしい人の顔は思い浮かばなかった。


え、じゃあ、薪今まで好きになった女とか
いないの?


矢継ぎ早にそう問われても
僕は同じように黙って考え込むしかなかった。



――

そんなに考え込むなよ。
講義が終わって教室を出てから
俺は薪にそう声をかけた。

一緒に取っている刑法の講義の間も
珍しく考え込んでいるあいつを見て
昼休みのあの話を
引きずっているのように思えたからだ。


「・・。考え込んでなどいない」
そう言いながらも薪はふと立ち止まって俺に
問いかけてきた。



「鈴木は。人を好きになったことはあるのか」


まっすぐに。
子どものように。
見上げるその表情に俺は時折戸惑う。

こいつは。
誰よりも優秀にもかかわらず。
誰よりも経験値が少ない。

俺は一緒に過ごすうちに
俺と一緒に行動することが
こいつの初めての経験につながっていることに
気付いた。

「薪、これは?」
いや初めてだ。

「薪、ここに行ったことは」
いや、ない。


一緒に過ごすうちに。

閉じ込められていたお姫様を
救い出した王子は。

外の世界に連れ出した王子は。
その姫に外の世界をどうレクチャーしたのだろう。
とそんなことを考えたりもするこの頃だ。



同情なのだろうか。
それとも。それは興味本位なのだろうか。

教授ですら一目置くこの薪が。
まっさらな。
なにものにも染まっていないことに。
気付いてしまった時。

親心にも似た気持ちを抱いた。


こいつに。
いろんな経験をさせてやりたい。
生きることの意味を。
喜びを。
たくさんの笑顔を。






スポンサーサイト

COMMENT 4

Fri
2016.04.22
07:52

 #

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Edit | Reply | 
Fri
2016.04.22
21:59

柏木 けい #-

URL

Re: タイトルなし

鍵コメK様、こんばんは!

「殺されたい」って思う心理って何だろうと思ったのが
最初なんですが、本当にそういう意味でつかわれていたら嬉しいです。


そして・・
私もですが、皆さんも鈴薪学生時代編、
望まれてますよね!

本当に読んでみたいです。

そして、K様、wild cats
すごく好きなお話しです。

私は秘密以外清水先生の作品を読んだことがなくて・・
唯一の作品かもしれません。

これからもっと読んでみようかな。


薪さんの心の葛藤や
成長が本編に至るまでにいろいろあったであろう
ことを想うと切ないながらも
幸せな薪さんの表情を想像して
幸せな気持ちになる私です。


しばらく鈴薪的なものを書いてみたいなと思っています。

これからもよろしくお願いします^^

Edit | Reply | 
Mon
2016.04.25
17:14

eriemama #-

URL

鈴薪さんって…

ご無沙汰してます。

こちらでも鈴薪さんが読めて喜んでます(笑)
なんとなく、二人は学生時代から関係がはじまったせいか春が似合う気がします。

鈴木さんはほんとおいしいですよね(^_^;)真っ白な薪さんにはじめてを与えていける。そうやって育てていくうち、どんどん輝きを増していく薪さんをどんな風に見ていたんでしょう。。。

続きも楽しみにしていますw

Edit | Reply | 
Wed
2016.04.27
19:46

柏木 けい #-

URL

Re: 鈴薪さんって…

eriemamaさん、こんばんは。
コメントありがとうございます!
新装版を見て皆さんのブログを見たら
書きたくなってしまいました。
本当に。薪さんの初めてのいろいろな経験を
彼は傍らでどんな気持ちで見ていたのかなと思います。

明日のメロディどんなことが書いてあるのかなあと
すごく楽しみです。

またいらっしゃってくださいね。

Edit | Reply | 

WHAT'S NEW?