そして
もう一度上目遣いで
見つめ返す薪のその表情は。
どう見ても煽っているとしか
思えないほど艶めいていた。
一雅は
思わず頬が紅潮していくのを感じていた
そっと手を差し伸べ
一雅の首にそっと手を回しながら。
薪は擦れた声でさらに彼に囁く。
さあ。
そう促されると、止まっていた一雅の
指先が弾かれた。
一雅は薪の身体を優しく撫で続け、
白いその肌のきめ細やかさに。
鳥肌が立った。
誰もいないこの別荘で
ただ若い二人の息遣いだけが
聞こえる。
そして
先ほどの
冷静な言葉とは裏腹に。
薪の顎や唇が震えているのが分かった。
必死で。
なんでそんなに。
自分の気持ちなんて
僕のことなんて何も思っていないくせに。
慣れないその指先が
震えているのに。
僕を救おうとでもいうのか。
―――――
今思えば。
同調していたのだろう。
自分の人生を
圧倒的な存在の力で
覆いつくされていた
一雅のその境遇に。
僕らのその行為は。
まるで
自分で自分を抱いているかのようだった。
だから。
痛くて、
苦しくて。
泣きながら
抱き締め合った。
お互いを愛おしいと
必要だと思いながら
抱き締め合えない不毛さに。
薪は。
身体も。
心も引きちぎられる感覚を
何度もその夜味わったのだった。
あの後そう何度も思った。
僕らは似た者同士で。
誰よりも
お互いを理解できるのに。
結局。
何も得られないのだ。
悲しいことに。